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鹿児島地方裁判所 昭和39年(行ウ)2号 判決 1965年3月29日

原告 平井好雄

被告 串木野市長

訴訟代理人 広木重喜 外五名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告が失業対策労務者として串木野市の失業対策事業に就労していたところ、昭和三五年八月一五日被告が所轄の伊集院公共職業安定所長に対し原告の雇入を拒否する旨の通知をなし、翌一六日から現在まで原告が右失業対策事業に就労できないでいることは、当事者間に争いがない。

二、原告は、まず、被告の右通知が原告に対する雇入拒否処分にあたるとして、右通知の取消を求めるので、判断する。

昭和三五年当時施行の緊急失業対策法(昭和三八年法律第一二一号による改正前のもの)第一一条は、「失業対策事業の事業主体は、公共職業安定所の紹介する失業者が、その能力からみて不適当と認める場合には、当該失業者の雇入を拒むことができる。」と定め、また同法施行規則(昭和三八年九月三〇日労働省令第二〇号による改正前のもの)第九条は「失業対策事業の事業主体は、法第一一条の規定により公共職業安定所の紹介する失業者の雇入を拒んだ場合には、その旨を当該公共職業安定所に通知しなければならない。」と定めていたが、失業対策事業に就労する失業者は、事業主体と継続的な雇用関係に立つわけではなく、日々安定所の紹介を受けたうえ紹介先の事業主体と一日かぎりの雇用関係を結ぶものであることを考えると、従来当該事業主体の失業対策事業に就労してきた者であつても、翌日からは同一事業主体に紹介されるかどうか未定であり、ましてその事業主体に対して雇入を求める権利はないというべきであるから、その者が現実に安定所からの紹介を受けてくる以前に、事業主体が当該失業者に対してその雇入を拒否することは無意味であり、またこれをしてもなんら右失業者の法律上の利益を左右することにはならない(事情に変化がなければ今後も雇い入れられるであろうことに対する期待は法律上の利益にあたらない)。ところで、本訴における原告の主張は、原告が伊集院公共職業安定所の紹介を受けて雇入を申し出たのに対し、被告がその雇入を拒否したというのではなく、今後原告が紹介を受けてきても雇い入れないという趣旨で被告から同安定所長宛になされた通知が雇入拒否行為にあたるというものであることは弁論の全趣旨から明らかであるが、原告がこのような事前の雇入拒否によつて直接害されるべき法律上の利益を有しないことは上記のとおりであるし、またこの通知を受けた安定所は、その後の紹介にあたり右通知に拘束されることなく原告が適格者かどうかを独自に認定、判断して行動すべき権限と職責を有するのであるから、結果的に原告が以後紹介を中止され失業対策事業に就労できなくなつたとしても、これを右通知により直接形成された不利益であるということはできない。

要するに、本件通知は、行政機関相互間の行為であつて、これにより対原告との直接の関係においてその権利義務を左右するものとは認められないから、これを訴訟の対象となる行政処分ということはできない。したがつて右通知の取消を求める訴は不適法たるをまぬかれない。

三、つぎに、原告は、被告が前記通知の翌日から現在まで原告に対し就労拒否処分をおこなつているとして、その取消を求めるが、すべての資料によつても、原告が安定所から紹介を中止された結果失業対策事業に就労できないという事実上の状態が継続しているだけで、それ以外に被告が原告に対しその就労を拒否するなんらかの処分をしている事実を認めることはできないから、その取消を求める訴も不適法である。

四、以上の理由により本訴はいずれも不適法として却下することとし、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本勝美 佐藤繁 谷村允裕)

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